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金田一幸助君を知っていますか?
と言うと、多分みんなあの有名な探偵小説を思い出すのでしょうが、この金田一幸助君は、同姓同名異字の僕の友達です。 だからそれほど有名人ではありません。 かれは子供の頃から一緒にいる友達なのです。 彼のお母さんも素敵な人でした。 例え話ではなく、実際に彼のお弁当にお母さんが入れ忘れたおかずをわざわざ学校に届けに来たりしました。 彼のお母さんは、彼が病気の日に、空の雲を見ながらあの雲がほしいと言うと、彼のために三年もかけて取りに行きました。 彼が、行きたいと願う場所へは、何処へでも連れて行きました。 だから幸助君は凄くお母さんが好きでした。 お母さんが喜ぶような事をしてあげたかった。 大人になった幸助君は、お金持ちになったらお母さんが雲を取りに行かなくても、代わりに大きな雲発生装置を作ってあげられること、おかずを作らなくても外食すれば済むこと、あと、二人がどこへ行きたくなっても行ける車や飛行機が、全部買えるということを知りました。 幸助君はそれに向かって一生懸命仕事をしました。 サプリメントも売りました。 水商売もやりました。 でも、幸助君は商人にはちょっと向いていなかった。 どんどん借金が募っていきます。 でも、幸助君は信じた。 そんな時、救いの手がやってきました。 幸助君は、もちろん話を聞きます。 「私たちの仕事をしてくれれば、幸助君の借金はチャラになるよ。しかも、それ以外に報酬も沢山あるよ。」 「よろこんで、お仕事させてください。」 幸助君は、本当に嬉しかったんです。 「幸助君、そうしたら夜のこの時間にこの道を三人の人が通る。それを全部殺してくれませんか?」 幸助君は、それにうんと首をたてに振りました。 「もちろん喜んでやらせてもらいますよ。」 幸助君は、言われたとおり言われた時間に言われた場所に立って人が来るのを待っていました。幸助君は、すこしうじゃあうじゃあと心臓がいうのを感じていましたが、それもこれもお母さんのためでした。 月のない夜でした。 人気のない道でした。 人が殺されるには十分な条件がそろっていました。 必ずお母さんが喜んでくれる。そう思って、人が来るのを待っていました。言われた時間になると、ちょうどその前を三人の人が歩いてきました。暗くて顔は見えませんが、確かに三人いたので音の出ない銃を使って、三人をちゃんと殺しました。 報告すると、お金を沢山くれました。 借金はなくなり、おかあさんにお土産も沢山買った幸助君は、よろこんで家に帰りました。家に帰るのは何週間ぶりだったのでしょうか。わかりません。 家に帰ると、なんだか家の前に沢山の人がいます。 どうしたの?と家の前にいる人に聞くと、 「幸助君、落ち着いて聞きなさい。あなたのお母さんは、夕べ、仕事の人と一緒にいるところを撃たれて死んだんだよ。」 と幸助君に教えてくれました。 ああ、そうか。撃たれて死んだんだね。 幸助君は、そのまま警察に言って今は冷たい監獄で暮らしています。 幸助君はとてもいい子なのです。 皆さんの中に知恵のある方がいらっしゃると思います。幸助君をどなたか助ける方法を知りませんか?幸助君はあれからずーっと監獄の中で、どうしたらいいのか考えあぐねているのです。 PR |
田中さんは、アルとやっていた将棋に負け続けたせいか、ホンのわずかな癒しを求めて、私のところへやってきた。
「ダメなァ、タナカ…」 田中さんの後ろでアルが言う。 「ようちゃあん。ようちゃんの唇はホントに魅力的だなあ。」 と擦り寄る。 「田中さん、やめてくださいよ。そーゆーの福ちゃんにやってやりゃいいでしょ?」 私は、キスしようとやって来た田中さんの顔を掌で押さえつけてみた。 田中さんは、それでも私の顔に向かって来た。 田中さんは、ここに来るまで名古屋に近いところで暮らしていた。 でも、実家はお茶の農家ですごくお金持ちらしかった。 実家を離れて年上の女の人と同棲していたらしい。 女は真面目な人だったが、田中さんはギャンブル大好きだった。 負けに負けて田中さんの借金は山のように増えた。 年上の女の人は彼に止めるように何度も言ったが、彼はやめることはなかった。 もう、どうしようもないところまで来たある日。 田中さんは、100円ショップにハサミを買いに行った。 田中さんは、そのまま何の用意もなく、近所の郵便局へ強盗に入る。出てきた時には二百万円を手にしていた。 家の近所のよく使う郵便局だったので、もう逃げられない。ヤバい、と思った田中さんは、とりあえず広島までの新幹線の切符を買った。 田中さんは、仁義なき戦いの大ファンだった。 逃げるなら広島。 それしか頭になかった。 その日のうちに広島まで逃げた。 もともとは、借金返済のために入った強盗だったが、もうどうしたって逃げられないという確信が田中さんの胸に募った。 そう思うと田中さんは広島の街で遊んだ。 遊べる限りの遊びをした。三日三晩彼は遊び、四日目の朝近所の警察署に出頭する。 警察署では、みんな不思議な顔をして見ていた。 「どうすりゃいいらぁ、ようすけぇ、俺はあと三年もあるらぁ。」 そしてまた、私にすりよってくる。私は、その頭を足蹴にする。 「あ、お前はぁ、先輩の頭を足蹴にしてぇ。見ました?」 他の仲間に話す田中さんは、なんだか可愛い。ペンギンみたいな感じだ。 そういうのを見ると、特に後悔もしてないようにも見える。 彼の心境は彼にしかわからない。 |
田中さんは、アルとやっていた将棋に負け続けたせいか、ホンのわずかな癒しを求めて、私のところへやってきた。
「ダメなァ、タナカ…」 田中さんの後ろでアルが言う。 「ようちゃあん。ようちゃんの唇はホントに魅力的だなあ。」 と擦り寄る。 「田中さん、やめてくださいよ。そーゆーの福ちゃんにやってやりゃいいでしょ?」 私は、キスしようとやって来た田中さんの顔を掌で押さえつけてみた。 田中さんは、それでも私の顔に向かって来た。 田中さんは、ここに来るまで名古屋に近いところで暮らしていた。 でも、実家はお茶の農家ですごくお金持ちらしかった。 実家を離れて年上の女の人と同棲していたらしい。 女は真面目な人だったが、田中さんはギャンブル大好きだった。 負けに負けて田中さんの借金は山のように増えた。 年上の女の人は彼に止めるように何度も言ったが、彼はやめることはなかった。 もう、どうしようもないところまで来たある日。 田中さんは、100円ショップにハサミを買いに行った。 田中さんは、そのまま何の用意もなく、近所の郵便局へ強盗に入る。出てきた時には二百万円を手にしていた。 家の近所のよく使う郵便局だったので、もう逃げられない。ヤバい、と思った田中さんは、とりあえず広島までの新幹線の切符を買った。 田中さんは、仁義なき戦いの大ファンだった。 逃げるなら広島。 それしか頭になかった。 その日のうちに広島まで逃げた。 もともとは、借金返済のために入った強盗だったが、もうどうしたって逃げられないという確信が田中さんの胸に募った。 そう思うと田中さんは広島の街で遊んだ。 遊べる限りの遊びをした。三日三晩彼は遊び、四日目の朝近所の警察署に出頭する。 警察署では、みんな不思議な顔をして見ていた。 「どうすりゃいいらぁ、ようすけぇ、俺はあと三年もあるらぁ。」 そしてまた、私にすりよってくる。私は、その頭を足蹴にする。 「あ、お前はぁ、先輩の頭を足蹴にしてぇ。見ました?」 他の仲間に話す田中さんは、なんだか可愛い。ペンギンみたいな感じだ。 そういうのを見ると、特に後悔もしてないようにも見える。 彼の心境は彼にしかわからない。 |
ただ、緩やかな風が吹いていた。
「随分探したんですよ。」 畦道の中にあるバス停、ベンチの端と端に男が二人座っていた。 長い時間、二人は黙って座っていた。 初夏の日差しの照りつける中、じっとしていても少し汗ばむ位なのに、ひとりの男はきちんとスーツを着ている。 二十代の終わり位の年齢だろうか、明らかに肥った腹の辺りのボタンが千切れそうに悲鳴をあげていた。 背は高からず低からず、顔つきは優しげだが一般的な職種には見えない。 もうひとりは、背も高くほっそりしていた。マッチ棒のようにとよく比喩するが、まさにそういった表現が似合っている。強いて別の表現をするなら死んで干からびたカナヘビににているのだろうか。 遠くからスピーカーを使った町内放送が聞こえる。 「随分探したんですよ。」 最初に口を開いたのは、肥った男だった。 肥った男は少し前屈みに手を膝の上で組んでいる。指の隙間をただ、緩やかな風が吹いていた。 「はあ。」 と痩せた男が力なく答える。水の張られた田の稲穂に目を向けて、肥った男の方は見ない。 「はあ、じゃわからないですよ。何処に逃げてたんすか。」 肥った男は少し疲れていた。 疲れながら、それでも痩せた男に話しかける。 「色々とね、大きな街にも小さな町にも。」 「それで最後に来たのがここですか。」 「いや、最後じゃなくって、まだこの後が…。 でも、どうやって探したんですか。」 痩せた男の背後から銀色のボール状のものが飛んでくる。 ボール状のものは、卓球のボールよりも少し小さく、時々真っ黒にくるくると色を変えて彼の脇を通りすぎた。 肥った男は、そのボール状のものには目もくれず、痩せた男を見ながら、 「まあ、あちらこちら探したんです。あなたを探すのは、実はそれほどむずかしいことじゃなかったんですよ、時間はかかったんですが。」と言った。 ボールは、肥った男の周りを二周くらい回ると彼の左の耳の穴に吸い込まれた。 すると、その瞬間肥った男の動きが止まり、少しの間痙攣した。 「随分探したんですよ。」 痙攣の止まったとき、彼はまた穏やかな声で喋り始めた。 |
「甘禁ですか。」
新しい宿房へ入るとサラの人間が必ずと言っていいほど訊かれる。 最初何を言いたいのかわからなかった。 甘いものが、食えないか?と訊かれていたらしい。 そういえば、ここに来てからもう何日も甘いものをたべていない。 三級以上は2ヶ月に一回集会があり、そこで甘いものが食べられるらしい。 級があがる毎にその頻度が高くなってゆき、一級は毎日食べられるのだとか。 みんなそれを楽しみにしていた。 高中さんなんかは、甘いものが載っている雑誌を眺めながら、いつも旨そうだ旨そうだとボヤく。 今は、割と痩せ型なこの人も娑婆では甘いものが好きで太っていた。 そうした人々を見ていてわかったことは、私はそれほど甘いものが好きではない。そういうことだった。 ここにいる期間の長い短いはあるかもしれないが、みんな初めから甘いものは欲しかったというのだからやはり私の場合は好きではないのだろう。 三級集会の日、私たちに配られたのは、さくら餅とコーラだった。 私は三つ並んださくら餅のうち2つを左右のふたりに渡し、コーラを半分ずつもらった。 もちろん、ここではそんなことは違反。見つかったら懲罰だ。だが、こんなに大人数で映画を見ている最中に、薄暗い中でコーラとさくら餅を交換している姿を見られる可能性なんてゼロに近い。 並んだパイプ椅子が工場毎にブロック分けされている。 そのブロックに房別に座ってゆく。 映画は半年位前にやっていたやつだった。 でも、ここにいると皆、それが新しい映画なのだ。 コーラも安いクラッシックコーラというやつで、あれは飲みたくないからと自分のコーラと両サイドのコーラの約二本分、いや二本半位のコーラが集まった。 私は炭酸が大好きなのでいただきますとおいしくコーラを頂いた。 みんな数ヶ月ぶりの炭酸に胃が痙攣をおこしたりもするらしい。 私はなんともなくするすると飲み込めた。 映画はサーフィンの映画だ。刑事と犯人がサーフィンを通じて友情を育むみたいな感じの映画だった。 話は半分に、私はまたしばらく飲めなくなるであろうコーラの味を楽しんだ。 春の風が窓から入り込んで眠たくなる。 オヤジも寝たかったら寝てもいいと言っていた。 もう誰かが眠っていた。そんな陽気の日だった。 |