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田中さんは、アルとやっていた将棋に負け続けたせいか、ホンのわずかな癒しを求めて、私のところへやってきた。
「ダメなァ、タナカ…」 田中さんの後ろでアルが言う。 「ようちゃあん。ようちゃんの唇はホントに魅力的だなあ。」 と擦り寄る。 「田中さん、やめてくださいよ。そーゆーの福ちゃんにやってやりゃいいでしょ?」 私は、キスしようとやって来た田中さんの顔を掌で押さえつけてみた。 田中さんは、それでも私の顔に向かって来た。 田中さんは、ここに来るまで名古屋に近いところで暮らしていた。 でも、実家はお茶の農家ですごくお金持ちらしかった。 実家を離れて年上の女の人と同棲していたらしい。 女は真面目な人だったが、田中さんはギャンブル大好きだった。 負けに負けて田中さんの借金は山のように増えた。 年上の女の人は彼に止めるように何度も言ったが、彼はやめることはなかった。 もう、どうしようもないところまで来たある日。 田中さんは、100円ショップにハサミを買いに行った。 田中さんは、そのまま何の用意もなく、近所の郵便局へ強盗に入る。出てきた時には二百万円を手にしていた。 家の近所のよく使う郵便局だったので、もう逃げられない。ヤバい、と思った田中さんは、とりあえず広島までの新幹線の切符を買った。 田中さんは、仁義なき戦いの大ファンだった。 逃げるなら広島。 それしか頭になかった。 その日のうちに広島まで逃げた。 もともとは、借金返済のために入った強盗だったが、もうどうしたって逃げられないという確信が田中さんの胸に募った。 そう思うと田中さんは広島の街で遊んだ。 遊べる限りの遊びをした。三日三晩彼は遊び、四日目の朝近所の警察署に出頭する。 警察署では、みんな不思議な顔をして見ていた。 「どうすりゃいいらぁ、ようすけぇ、俺はあと三年もあるらぁ。」 そしてまた、私にすりよってくる。私は、その頭を足蹴にする。 「あ、お前はぁ、先輩の頭を足蹴にしてぇ。見ました?」 他の仲間に話す田中さんは、なんだか可愛い。ペンギンみたいな感じだ。 そういうのを見ると、特に後悔もしてないようにも見える。 彼の心境は彼にしかわからない。 PR |
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