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ただ、緩やかな風が吹いていた。
「随分探したんですよ。」 畦道の中にあるバス停、ベンチの端と端に男が二人座っていた。 長い時間、二人は黙って座っていた。 初夏の日差しの照りつける中、じっとしていても少し汗ばむ位なのに、ひとりの男はきちんとスーツを着ている。 二十代の終わり位の年齢だろうか、明らかに肥った腹の辺りのボタンが千切れそうに悲鳴をあげていた。 背は高からず低からず、顔つきは優しげだが一般的な職種には見えない。 もうひとりは、背も高くほっそりしていた。マッチ棒のようにとよく比喩するが、まさにそういった表現が似合っている。強いて別の表現をするなら死んで干からびたカナヘビににているのだろうか。 遠くからスピーカーを使った町内放送が聞こえる。 「随分探したんですよ。」 最初に口を開いたのは、肥った男だった。 肥った男は少し前屈みに手を膝の上で組んでいる。指の隙間をただ、緩やかな風が吹いていた。 「はあ。」 と痩せた男が力なく答える。水の張られた田の稲穂に目を向けて、肥った男の方は見ない。 「はあ、じゃわからないですよ。何処に逃げてたんすか。」 肥った男は少し疲れていた。 疲れながら、それでも痩せた男に話しかける。 「色々とね、大きな街にも小さな町にも。」 「それで最後に来たのがここですか。」 「いや、最後じゃなくって、まだこの後が…。 でも、どうやって探したんですか。」 痩せた男の背後から銀色のボール状のものが飛んでくる。 ボール状のものは、卓球のボールよりも少し小さく、時々真っ黒にくるくると色を変えて彼の脇を通りすぎた。 肥った男は、そのボール状のものには目もくれず、痩せた男を見ながら、 「まあ、あちらこちら探したんです。あなたを探すのは、実はそれほどむずかしいことじゃなかったんですよ、時間はかかったんですが。」と言った。 ボールは、肥った男の周りを二周くらい回ると彼の左の耳の穴に吸い込まれた。 すると、その瞬間肥った男の動きが止まり、少しの間痙攣した。 「随分探したんですよ。」 痙攣の止まったとき、彼はまた穏やかな声で喋り始めた。 PR |
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