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ひろは朝、いつものように目が覚めた(気がした。)。
ひろは朝、いつものように上体をおこして、ライトの紐をさがして、指が宙を掻いた。ところが、いつまでたっても、ライトの下にくっついてるスイッチの紐は見つからない。いつもなら、三十秒とはかからないのに、不思議なことだった。 いつものように目が覚めたと思っていた。 ところが、どこかが、違っている。 何かが、違う。ひろはそう思った。 雨戸がしまっていると、自分が何を見ているのかわからないが、でもそうではなしに、パソコンのモニターのランプもビデオのデジタルの時計も、それからわずかに雨戸の隙間から漏れる太陽の光すらも、まったく漏れてこないのだ。 ひろは、立ち上がってみた。 いつも立ち上がれば、机の角に手が届く、窓に手が届く。いつもの感覚を信じて、ひろは、その腕をあたりに伸ばしてみた。 何もなかった。何が、起こったのかまるで見当がつかない。 ためしに、前らしき方向へ歩いてみる。 いつも、踏んでいる畳の感覚とまるで違う。 そこには、温かみもそれから、畳の縁も何もない。足の裏は、なにか今まで感じたことのないような、ひんやりとした硬い何かだった。そして、わずか、六畳の部屋のはずが、どこまでも歩けてしまうのだった。何が起こったんだ?ひろには、よく理解できない。ただ、周りは黒一色の世界があるだけだ。 ひろは、そのあたりを円を描くように回ってみた。夢かとも思って、覚めるように努力もしてみた。しかし、どれも期待はずれの現実が、ただ、彼を待っているだけだった。 とりあえず、自分が夕べどういう状態で帰ってきたのか、いろいろ考えてみた。特に泥酔していたわけでもなく、何かのドラッグを試したとかそういうことでもない。考えられることは全部考えてみたが、何も思いつかない。 現実は、この非現実な世界のみ。とにかく、目の前に広がっているのは、暗闇しかないのだ。 狂いそうになった。それでも、何かを探してみた。ひろが、探すものは、何なのかさえも自分でわかっていない。 そのことに悔しく、苛立ち、また狂いそうになる。そして、また、落ち着きを取り戻すように、何かを探し始める。けれどもこの闇の中は、空腹もなく、また、疲れもない。いらないものもないけれど、必要なものもない。何もない世界に迷い込んだと知ったとき、本当の絶望が、ひろの中に生まれた。今まで、金や家族や友人やしごとにまみれた生活は一切ないが、それは、同時に自分が何かうみだすということすらも失われたのだった。 茫洋とした絶望は、はっきりとした目標物がないから、その分深い。 とにかく、ひろは、歩いてみた。歩いている間、いろんなことを想像した、家族のこと、家のこと、借金、仕事、食事、排泄、恋人、すべては、何もここでは意味をなさないのか・・・。ひろは、何日も何日も歩いてみた。最初はどこから歩いてきたのか、まるでわからない。 もしかしたら、自分はどこへも歩いていない気がする。 とりあえず時間も空間も関係ない。何をするのもまるで意味がないのだろうか、ひろは、そんなことを考えながら、今日もとりあえず横になる。 PR |
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