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「海のかなたに捨てに行きました。」
佐藤は、そういった。 「海のかなたにいろんなものを捨てに行ったんです。」 佐藤はテトラポットの上に立ち、僕にそう語る。 風が強い。僕がかぶっているキャップは、最近の流行のもののように深く出来てはいなかったので、今にも吹き飛ばされそうになり、僕は、その上に掌を乗せてみる。 冬なのに、海岸線の日は、海の太陽特有の強さで、僕らに照りつける。 日差しが、少しだけ眼に痛い。 「辛かったんですね。佐藤さん、とっても辛かったんですね。」 僕は、風に消されないような大きな声で、佐藤に言った。佐藤は、何も答えずに、しゃがみこんだ。 バタバタと僕らの背後にある県道沿いの旗がたなびいている。 僕は、防波堤の欄干から、テトラポットに這い出ると、佐藤の脇に立った。佐藤は、ちょっと下に顔を向かせて、僕の視線を自分の顔に向けさせないようにした。 珍しく泣いているように見えた。 「なくしちゃいけないけど、失くさなくっちゃいけないものはけっこうあるんだよ。」 「佐藤さん、大好きだったんだ。」 佐藤が、その日、海のかなたに捨てたもののすべてを僕は知らない。でも、佐藤が捨てたものは、この海の水に溶けずに、どこかでまた佐藤がやってきて、佐藤が見つけてくれるのを待っているような気がしてならない。 PR |
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