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世界が滅びるというその日は、ごく普通の日のようにやってきた。
なんとか座の流星群が大量に地球にぶつかり、それが小惑星の衝突を誘発するから、明日の朝には人類は滅亡しますと言われた。 ただ、ずっと言われ続けていたらしくみんな特に慌てているような人は居なかった。淡々と集まり、明日の準備なんかを話した。 じゃあさとしくんは明日は、その様子を記録してね。と言われ、あ?と空をぼんやり見ながら半分上の空で僕は答えた。どうせみんな死んでしまうのだから、とも思ったけれど死んでしまうのだったら別に残しても残さなくてもどちらでもいいので、とりあえず残す係りは承諾することにした。 ぼくたちの線路移動型アパートは、ゆっくりと東へ向かっていた。 穏やかな午後の日差しを受けた町並みが何事もないかのように目の前を通りすぎる。 アパートが走るのを止めたら多分、子供たちの遊ぶ声が聞こえるだろう。 雀も鳴いているだろう。 眠くなったので少しうとうとするつもりだったが、突然誰かに起こされて目が覚める。 「外、見てごらん。」 驚いて起きれば、近くに見える高層ビルの合間に見渡す限りの星、星、星だ。 夥しい数の星に、少し吐きそうになる。 僕は、それを書き留めようと近くに紙を探した。ちょうど天の川を撮影したという昔の雑誌の切り抜きがあって、四方に余白があった。そこに急いで絵と状況を説明する文字を入れた。 「来るよ。」 テレビを見ていた女の子が叫ぶ。空が何故か一瞬にして青くなった。無数の細かい光の点が、空中に浮かぶと、それがまるで昼間の花火のように破裂して雲を作る。 流星が大気圏にぶつかるとき、勢い余るとその様な雲を作ると雑誌で昔読んだことがあった。 青空と雲。 文字に書けば、柔らかな世界を想像出来る。 でも、世界は終わろうとしていた。 雲の数は増え続け雲が出来る度にぼうんという音が聞こえた。 それが連なって、まるでマシンガンか、ガトリングのような音になった。 部屋の奥で誰かがテレビを見ている音がする。 線路を車輪が回る音も聞こえた。 僕たちは、その音のひとつひとつを楽しんだ。踊りだしたい気分にもなった。 みんなで、外の世界を見た。 それは、とても楽しかった。 二、三時間も過ぎた頃、少しずつ空が暗くなるのをみんなが感じた。 ああ、もうその時かと少しずつ寂しくなった。 少しずつ、少しずつ。 ところが、テレビを見ていた誰かが切り裂く様に叫んだ。 「小惑星、逸れた。」 部屋中が、どよめいた。 部屋の中にいた全員が、テレビに駆け寄る。 テレビでは、この惑星の全体図と、それに右側から赤い矢印が何本か、惑星に向かう方向で描かれていて、その図を見ながら、どのような経緯で小惑星の衝突を免れたのかをアナウンサーが話していた。 僕たちは最初、胸がぐらぐらと煮たっている様になっていた。 けれども、少しずつ少しずつ時間が経つにつれテレビから目を反らし始める者が増えた。 テレビから目を反らした者は、みんなまた空を見た。 さきほどの雲は、風に流され、漁師の投網のようだった。 漁師の投網は、捕まえる魚もなく、ただ流されるばかりだった.。 PR |
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