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残業は嫌いだった。
斉藤は残業が本当に嫌いだったのにその日残業してしまったことに深い悔いを感じている。 ただ、その日はいろんな訳があった。 残業せざるを得なかった理由としては、派遣された編集プロダクションの納期が間に合わなかったこと。 そして、台風で電車が止まってしまったことの二つが主だった理由だった。 いつもは定時であがっているのにその日の斉藤は、終電間際になってもあがれる気配がない。雨が、窓に容赦なく叩きつけている。 もうじきこの窓雨で割れるんじゃない? 誰かが、部屋のどこかでそんなことを言っている。 斉藤のゲラは、なんとなく行き詰っていた。 三十三ページから三十五ページのデザインがどうしても上手くまとまらなかった。でも、思考回路は十時を廻った頃に鈍くぎぎぎぎぎという音を立てて止まったまま動いていない。 どうしたものか、いろいろ考えているうちにお腹まで痛くなってきた。 「ちょっとトイレに行ってきます。」 斉藤は立ち上がり、トイレに向かった。 編集室の扉を開けると少し暗い廊下がある。 編集室よりも明らかに暗いのは、多分蛍光灯が古いせいだろう。 インクと紙の匂いが、いかにも編集プロダクションらしい。 廊下へ出るとそのちょうど真前がトイレになっている。 扉を開けようとしたら、後ろの扉が開いて、最近仲良くなった美人の三木さんが、 「あ、トイレ壊れてるから、他の階に行ってくれって、さっき誰かが言ってましたよ。」 と教えてくれた。 斉藤は、礼を言うと、そのトイレの扉の横にあった階段で上の階へ向かった。 上の階は廊下に電気すらついていなかった。 斉藤は少し寒気を感じて、電気のスイッチを探した。 階段を上りきった左角にスイッチはあった。 そのスイッチをつけると意外や意外。下の廊下よりも明るいではないか。ただ、不思議なことに、その階のトイレは、階段の横にはなかった。 (あれ?どこ?どこ?どこ?どこ?) 冷たい空気の廊下を見ると突き当たりにWCの文字のある場所が見える。 (ああ、あれだ。) 斉藤は、そのままトイレにかけこんだ。 もうかなりの限界が、斉藤の腹部を襲っていた。 そのまま、個室の扉を閉め、ズボンを下げる。 さっきまで、ちょっとつらい気持ちだったのにそれが一気に開放に向かった。しかも、斉藤の大好きな洋式便所だ。気分が倍に良かった。 トイレットペーパーを引き出して、それをたたみ、しりを拭う。この快感に少し酔ってしまう斉藤が個室の中にいた。 ここまでは良かった。ここまでは、斉藤の思惑通りだった。 しかしこの次の瞬間、不思議なことが起こり始めた。 まず、立ち上がる前に、いきなりトイレの水が流れた。 斉藤の排泄物と濡れて水に溶けかかった紙を便器は吸い込んで行った。 おかしいな。と斉藤が思った瞬間に次の現象は起きた。 立てない。 斉藤が、その不思議な便器を覗き込もうと立ち上がろうとしたのだが、力という力が入らない。 何がなんだか、斉藤にはわからなかったが、その次の瞬間に無防備な斉藤の性器にあてがわれる何かの感触があった。 手だ。 どうにか動かせる眼を下へ向けると自分の股間を女性の手が動いているのがわかった。 細くしなやかな指が自分の性器を撫で回した。 下から上へ上から下へ細い指は触るか触らないかという静かな疼感を性器に与えながら、ゆっくりと恐怖におののく斉藤の性器を撫でた。 その刺激は、やがて斉藤の恐怖心とはまったく別のものとして、斉藤の性器に生殖への欲求を与えた。 募る恐怖は、更にも増しているのに、斉藤の性器はそれに比例するように 疼感を得ている。それを知っているかのように手は、斉藤を焦らした。 もう少し、もう少し…。斉藤の性器はまるで別の人格を持っているかのように手にそれを欲求する。 そこに同時にこんな手から解放されたいという欲求が斉藤にはあった。 やがて、否応なくその限界を性器が感じるときがきた。 斉藤の目の前に一瞬暗闇が見えた気がした。 暗闇の中に白い光が射した。 意識が遠のいた感じがする。 すると、そのままの体勢で、斉藤はトイレの扉の外に急に突き飛ばされた。 扉も壁も、すべてをすり抜けて、斉藤は、いきなりさっきやってきた廊下に転がった。 そこには闇もなく明るい蛍光灯の廊下が広がっているだけだった。 斉藤は、訳がわからない。 ふと見ると、まだズボンもパンツも上げずに倒れている。 急いで、身だしなみを整えると、立ち上がり、後ろも振り返らずにその階から走り去った。 実は、この後日談というのがあって、実は、この怪奇現象は、斉藤の残業の日には必ず起こるようになるのだが、それはまた別の話。 PR |
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