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君は、あれからどうしていますか。
「あんたねえ、泥棒みたいな真似すんじゃないわよ。」 引っ越しの荷物を片付けに来た僕に不動産屋の女が言います。唖然としながら、僕は言葉を失いました。 どうこうしたくたって、出来るものじゃない。僕は今や実家すらないホームレスですよ。言葉は喉まででかかっていました。でも、何も言えなかった。 別に切れられてるのに逆ギレしたって…って思ったからです。 白熱灯のライトの下で、不動産屋と僕と僕の友達と大家の四つの影が揺れていました。でも、誰も身動きが取れなかったんです。 不動産屋の奥に控えていた大家のおばあちゃんがゆっくりと重い口を開けます。 「猿渡さん、あなたねえ、これ以上この老人に迷惑掛けないで頂戴よ。」 まるで誰もいない大伽欄にひとりで大声を出しているようです。 頭の中をわんわんとこだまする声、声、声…。 僕を罵る単語の数々を聞き飽きたのか、友達が話を挟んできました。 「まあ、あなた方の彼を責める気持ちも解らなくはないけど、ここを一刻も早く出ていくように指示したのは、あなた方だし、それに終わってからあいさつ行けばいいって彼言ってはいたから、なにも夜逃げみたいな事するつもりはなかったんですよ。」 「そんなもの、しんじられますか。今までずーっと逃げて来たんですよ、この人。」 こっちだって大変だったんだからと言いながら、僕の顔を眺めているのは、不動産屋の女でした。 僕は、そんな話とはよそに君の荷物を探しました、視線が泳ぐ限りに。 でも、君の荷物はもうなかったですね。 「さっちゃんだって、かわいそうよ。あんたの為にみんなから疑われて、居場所どこだって沢山電話掛かってきて。あんた、あのコの気持ちを考えたことあんの。」 不動産屋が怒鳴っているその声がそれまで僕の心に届かなかったのは、この話が出てこなかったからだったんですね。 その声で急に元我が家の玄関に連れ戻されました。 でも、怖くて君がどうしているのか、僕には聞けませんでした。 その日、どうにかその場は凌いで、荷物は無事に運び出しました。 しばらくして、その後君に電話をしたけど、君の番号は変わっていて繋がらなかった。 君は今、どこにいますか。 君は、あれからどうしていますか。 PR |
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